昔のやり方では今の若い子はついてこない

技を「伝える」難しさ~時代で変わる新人教育のあり方

―現場での役割は指揮監督が中心となられている?

「そうですね、最近は上に上るよりも地上にいて、作業全体を見て若い子を指導しながら、指揮をとる感じですね。一旦、高いところに上がってしまうと、何か突発的なトラブルが起こっても、すぐ降りて対処するというわけにはいかないので。「上で電話ばっかりかけとるよりは、下にいるほうが良い」と分かり、そうなりました(笑)」

―鳶職人を目指す後任の指導で苦労されることや、ポイントなどはありますか?

「自分たちは、「見て覚える」方式で教育されましたけど、今の子たちはその方式だとついてこないですね。僕等の頃は、ミスしたら殴られるとか、今考えたらメチャメチャ乱暴でしたが(苦笑)自分は、そういう方式では職人は育って行かないと思うし、僕自身はそのやり方をしたくないと思っています。今は鳶職人の技術も「教育」していく時代。元々、彼らの持っている伸びしろはあるのだから、スムーズに成長していくように感じますね。」

―教育している中で、特に気にかけているポイントなどは?

「メリハリ、ですね。鳶の仕事である「高所作業」はなんと言っても危険な仕事なことは間違いない。ですから、メリハリをつける、気持ちを切り替えることはしっかりと意識して欲しいです。休憩のときはどんだけおちゃらけてもいいけれど、休憩あがって、仕事始めるぞ!となったら、そこは、ピッと気持ちを切り替える。そういうオン・オフは大切ですね。休憩のノリのまま仕事を進めると、安全面でも良くない。」

―新人教育で難しさを感じるところは?

「うーん、気をつけていないと「怒りすぎ」になることかな。今の若い子は叱るのではなく、引っ張ってやる、という感じが良いのかな。ミスをしたときのフォローの方法が難しいですね。それから、若い子はどうしてもスピード重視になりやすい。けれど、一番大事なのはなんといっても「安全」です。急いでやりたい気持ちは分かるんです。分かるけれど、でも、そこは安全が大事、と意識づけさせていくことも大切だと思いますね。」

長い職人生活の中では、転落事故に遭遇するなど辛い経験もあった、と語る谷内さん。そんな時、気持ちを整理して自分の中で折り合いをつけていくことも学んだ、と語る。鳶職人にとって最も大切なことは安全に作業をすること、という強い意思も感じさせてくれました。

ちなみに、ご自身が憧れて鳶職人への道を決めた「七分」は流行を過ぎたのか、現在の谷内さん自身のゴト着は「ストレート」になっているそう。そんなところも時代とともに変化が現れているようでした。

「これからの鳶職人像」を新たにしていきたい

―安全面や、時代の流れなど鳶職人の世界もどんどん変わっていってる、とおっしゃっていましたが。

「そうです。鳶だけじゃなく、自分たちのような建設業って、現場の性質上どうしても大声を張り上げたり、怒鳴ったりする必要ってあるじゃないですか?でも、そういうところだけを見て「荒っぽい」と判断されることには抵抗感もあります。建設業全体を見ると、昔だったらこうじゃなかった、ということはたくさんありますから、技術を伝えていく上では、そういう変化も意識したうえで、変えるべきところは変えていかなければ上手くいかない、と思いますね。」

―職人歴を振り返って、「あなたにとって鳶職人とは?」と聞かれたら?

「パートナー、ですね。自分の中には「男だから、仕事で身を立てなければ。」という思いがある。そんな仕事の中にもパートナーがいる、現場の中にもパートナーがいる。そんな感じです。」

・・・鳶という仕事は、向き合い戦う存在ではなく、寄り添い共に歩いていく存在である。この一言に、谷内清浩という人間が凝縮されているように感じられました。

谷内さん1

インタビューを終えて

「家庭に仕事を持ち込まない」という谷内さん、実はインタビュー当日は偶然お誕生日、家庭では小学校高学年の子どもさんがいるとのこと。「休日は子どもと遊ぶのが何より」と、よきパパぶりを発揮しているが、一方で「外出でハンドルを握るとわざと現場の方を通って、「これ、俺がやった現場」って、さりげなく妻と子どもにアピールしてます(笑)子どもなんて「ふーん」ってクールですね~」と嘆く、シャイな一面も。

中間管理職的な立場で「なかなかまとまった休みが取れない」のも悩みだそう。仕事も多忙を極める中、子育てにも充実した毎日が伺えました。

インタビュー当日が偶然、31歳の誕生日だった、という谷内さんは昭和末期生まれ。昭和から平成、そして21世紀の職人育成を考える最前線を支える一人として、これからの職人像を模索されている様子が感じられました。

(インタビュー前半:『次世代の職人を育てる大切さ』)

友達にも鳶の事を教える。

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