鳶職人の妻として、毎日現場で働く夫を支えつつ、同時に一男二女の子育て真っ最中のN美さん。ハードな毎日を送る鳶職人にとって、支えてくれる家族は、なくてはならない存在だろう。
体が資本!だからこそ支える家族の存在は大切
鳶職人は年齢の割に高収入だと言われる。反面、怪我などで現場を退く決断を迫られる場合もないわけではない。その分、パートナーは気を張って支えなくてはならない時もあるのだろうか?家庭人としてのご主人についても伺ってみた。
―鳶職人は収入が高いことでも有名ですが、お金の使い方なんてどうですか?
「若い頃は激しかったですねー。しっかり遊んでいらっしゃった?感じです。とは言っても、メチャクチャというわけじゃなく、言えばわかるので、浪費で困った経験はないです。」
―副業の工具メンテナンスも奥様に公開だと伺いました
「工具の現場では鉄工所で、女の人は危ないからと見に行けないんです。 家でビフォーアフターを見て楽しむという感じです。出来上がったものは素直に凄いと思いますね、すごくかっこいいです。完了までの期間中の様子は、子供がおもちゃ散らかして遊んでいるみたいで、ちょっぴり微笑ましいです。私の方が歳は二つ上、学年は三つ上になるので、「姉さん女房」感覚かな。」
―したいとなったら、やるまで気が済まないタイプですか。でも、楽しそうですね。
「出来上がりの時に、すごく嬉しそうに話をしているのを見ると私も「よかったなあ」と思います。工具のことは、私にはよくわからないことも多いですが、「うまくいった!」と嬉しそうにしているのを見ると、こっちも嬉しくなりますね。」
―ご家庭でのお父さんとして、お子さんとの関わりについてもお聞かせください
「最近は上の子が大きくなって、部活などで忙しいので、ちょっと関わりが難しくなってきましたね。躾は厳しいところと、甘いところと両極端です。時間や、決め事を破るととてもうるさい。
逆に、旦那がいる時に、私が娘を怒っても、パパの所に助けを求めて逃げて行くこともよくありますね。」
外ではバリバリのエース職人も、家庭では優しいパパぶりを発揮しているようだ。ママの存在なくしては成り立たないバランスなのかもしれない。
支える絆・・・鳶職人の夫と描く未来
―これからの仕事の仕事ぶりについて気になることはありますか
「やっぱり怪我が一番心配ですね。亡くなっている人もいますし、仲間の職人さんのお葬式に出席した経験もありますから。本当に、気をつけて欲しいです。将来本人は独立したいようだけど、私は仕事には口を出さないつもりなので、したいようにしてくれたらいいかな。」
N美さんのご主人は、何度かの転職と一人親方の経験もしている。「一人親方時代はとても勉強になって良かった。だから自信は持って欲しいなあと思っている。」と語る。
一人親方を経験したことで、会社員の一職人は違う「責任」を経験できたことが大きかったと、傍目には見えるのだそうだ。「一人親方の方が、彼らしいかな。でも、同時にもうちょっと、自分にも厳しくして欲しい。」とちょっと手厳しい。
―鳶職人をよく知らない人たち、同性にはどんなことを希望していますか
「もっと若い子に、鳶の姿を見てほしいと思います。同じ会社に勤めていた若い友達たちと話をすると、「鳶は、朝お弁当作りで早起きしなきゃいけないのが嫌だ」とか「細々したことが、めんどくさい。」という意見が多かったです。男の子は鳶職人に憧れがあっても、鳶職人を支える女の子側には憧れはないのか?と、残念に思いました。そういうバカに仕方はよくないと思います。」
少し真面目な雰囲気の言葉の端々に、鳶職人である夫を支えてきた自信のほどと、プライドもうかがえた。女性に「凛々しい」は合わないかもしれないが、そんな凛としたイメージが浮かんだ。
―これから職人人生を歩む後輩や、その家族にメッセージをお願いします。
「鳶職人て、ちゃんと帰って来られるかわからない、危険がある仕事だからこそ、支える側の大切さってあると思うんですよ。特に若い職人は仕事をなめてるというか、甘くみて危ないことをしやすい。支える人が居ることで職人側の意識も変わると思います。」
N美さんは、ご主人によると料理が得意だという。からだか資本の仕事だけに、腕自慢の奥さまは頼りになるサポーターと言えそうだ。
鳶職人たちは、支えてくれる家族と一緒に天空の案内人になる。一緒に足場の上には立たないけれど、その絆が鳶職人達の命を陰で守ってくれているのかもしれない。そう思わせてもらえたインタビューだった。
友達にも鳶の事を教える。