どんな仕事でも3年も続ければ周りから“若手扱い”はされなくなる。これは本人が一番実感することだ。栗田さんも鳶として次のステージを目指し奮闘していた。
川西興業の鳶になって3年。土木関連の仕事から鳶になったこともあり当初は「金を稼ぎたい」という思いが強かった。しかし最近栗田さんには別の欲が生まれてきている。それは一人前の鳶として、社長から認められたいというもの。
「最初のころはとにかくよく社長から怒られていました。とくに足場を組む先で植木を壊してしまうなどの物損をしてしまったときは、こっぴどく怒られましたね。でも怒られるときは絶対自分にふがいなさがあるもの。言い返すことなんかできません」
今、栗田さんは休日返上で現場に出ることもある。「人より多く金を稼ぎたいですからね」と笑うが、同時に少しでも多くの現場を経験したいという思いもあるのだろう。社長から認められる。その先には“親方として自分が現場を仕切る”という目標もある。現場に出ないときもついいろいろな家を目で追っては、自分ならどういう足場を組むかなどを想像する。
「社長や親方たちを見ていると、ただただ『すごい…』という言葉しか出てきません。どこがすごい?と聞かれても『全部』としかいいようがない。とにかく何でもできて、人を思い通りに動かし、きれいな足場をくみ上げていく。僕なんか足元にも及ばないです」
目標とする理想の鳶職像があって、自分は今どのくらいの位置にいる? そんな質問をぶつけてみたところ、100点満点で2点がいいところだと答えた栗田さん。もちろんかなり謙遜しているはずだが、それでも本人には到底理想にはたどり着けていないという口惜しさがあるのだろう。そして栗田さんはこう続けた。
「あと2年。この間に実力をつけて、社長から一人前になったと認められるようになりたいです。そのためにはやらなきゃいけないこと、できるようにならなきゃいけないことがたくさんある。高いところが苦手なんて甘えたことも言っていられないですね(苦笑)。足場を組むとき、今はまだ中間までしか担当していませんが、早く上まで上がれるようにならないと」
鳶の世界は実力主義。後輩でも実力があれば自分を追い抜かしていくかもしれない。そんな悔しさを味わうのはごめんだという気迫が伝わってくる。“3年”という仕事をする上でひとつの節目となる時期が過ぎ、栗田さんには新たな欲が芽生えてきた。「いつかは親方になり、人を使って現場を切り盛りする」という目標を叶えるうえでも正念場になるだろう。でも今の熱い思いがあれば、きっと“その時”はやってくるはずだ。
友達にも鳶の事を教える。