自分の技術を武器に稼ぐ職人に憧れ、鳶の世界に飛び込んだ。好きで始めた仕事。辛いことがあってもすぐ辞めるわけにはいかない。そんな山川さんの意気込みを聞いた。
“鳶”と一言で言っても、仕事の内容により鉄骨鳶や重量鳶、橋梁鳶などいろいろな呼び方がある。また仮設足場を組み上げる足場鳶でも、使う資材はそれぞれ。川西興業の山川さんは、中学卒業後、枠組足場を扱う会社に入った。
「最初は右も左もわからず鳶になったけれど、仕事をしているうちに枠よりくさびのほうが稼げるっていう話が聞こえてくるようになって。同じ時間だけ仕事をするなら多く稼げた方がいいじゃないですか。会社を変わるのに迷いはなかったです」
工法や資材にはそれぞれメリットがある。枠組足場は高層建築向き。一方でくさび緊結式足場は足場設置の自由度が高いのと同時に納期短縮やコスト削減ができるというメリットがある。山川さんが鳶になった頃は景気低迷で世の中が暗く沈んでいたとき。くさび緊結式足場は時代のニーズにマッチしたのだろう。
「同じ鳶とはいえ、くさびに変わったときは大変でした。重い資材をたくさん担ぐから肩が痛くて。材料を上げるのも辛い。最初の1週間は痛みとの闘いでした。ただ不思議なもので仕事をしているときは痛みを忘れちゃうんですよね。痛いとか言ってられないくらいだったのかもしれないけれど(笑)」
職人に大切なものは?と尋ねたら「根性」と即答。鳶への憧れ、給料に惹かれ、仕事がないから…さまざまな理由で会社に入ってきたが、あっという間にいなくなる人を何人も見てきた。山川さんが体の痛みと闘った1週間。まずはそこを乗り切ることが最低条件?と聞いても「なんとも言えない。根性があるかどうかってだけです」と。山川さんには根性があったんだねと言ったら、「自分は先輩が怖かったので(辞めたいと)言えなかった」とおどける。
「今でも辛いと思うことはたくさんありますよ。人手が足りなくて現場に2人で行かなきゃいけないときなんかは上に行くと材料が届かなかったり。必然的に上げる回数も多くなりますしね。でもそこで文句を言っても仕方ない。辛いならその分、早く現場を終わらせることを考えたほうがいいかなって」
小学校時代の作文。山川さんは「大人になったら職人になる」と書いた。外で黙々と働く姿を見てカッコいいと思ったからだという。幼い頃の夢を叶え、山川さんは次のステップへと向かっている。
友達にも鳶の事を教える。