10代の若者が鳶に憧れる理由のひとつが「身ひとつで稼ぐことができる」だ。ただ、大金を稼げる鳶になるための道のりは楽なものではない。
「早朝集合は苦にならなかったのですが、鳶をはじめて1ヵ月間はずっと筋肉痛に悩まされましたね。肩などずっと痛いまま、体が仕事に慣れるのに2年くらいかかったと思います」
18歳のとき鳶の世界に飛び込んだアップステップの田中さんは、がむしゃらに働くだけだった新人当時をこう振り返った。
職人の証であるゴト着(作業着)に惹かれこの世界に飛び込んだものの、いざ入ってみると想像以上に大変な仕事であることを体で思い知らされたのだ。
だが、その分、自らの体で稼いだ給与を手にするときの喜びはひとしおだった。思えば当時の日給は7~8000円くらい。親方なったいまとは比べものにならない額だったが、給与を受け取る時が仕事のやりがいや歓びを感じる瞬間であることはいまも昔も変わらない。
「いま現場に出るのは、平均してひと月25日くらいだと思います」
要は、日曜以外は現場に出ていることになる田中さんにとって、鳶になって以来の大きな目標がある。
「目指すのは月に100万円を稼ぐことができる鳶になることですね」
鳶の世界は結果を残し実力を持つ者が一流と称される。大金を稼ぐという目標を胸に秘め鳶になっても、この世界で認められ評価を受けられなければその夢はかなわない。
現場で常に結果を出し続けないと仕事が回ってこない厳しい世界なのだ。
「仕事をいっぱいこなさないと稼げないですが、数をこなすには指名を得ることが必要になってきます」
足場を架設後、会社宛に「次回も田中君でよろしく」と連絡がくることが鳶として誇らしいと胸を張る田中さん。指名を得るためにある思いを胸に焼き付け作業を行っている。
「使う人の気持ちにたって足場を組む。シンプルなことですが、これが一番重要なことだと思っていますから」
友達にも鳶の事を教える。