鳶になるきっかけを問うと金銭面とともに圧倒的に多い答えが「鳶を見てかっこいいと思ったから」。彼らが感じた鳶の「かっこよさ」とはどういうものなのだろうか。
「かっこよさ」をきっかけに生業とすることを決心する──建設業界に生きる職人たちのなかで、これを理由に世界へ飛び込む若者の人数は鳶職人がダントツで多いのではないだろうか。
辞書をひくと「かっこよさ」は“見栄えがしたり、態度・行動がさわやかなことで心ひかれること”と書かれている。
これを鳶に照らし合わせると、独自の服装を着こなす容姿、高所で颯爽と働く立ち振る舞い、チームで団結し作業を行う男の世界など職を極めた者たちが見せる多彩な表情なのだろう。
17歳のとき、この世界に飛び込んだアップステップの阿部さんも鳶が発するかっこよさに魅入られたひとりだ。
彼が魅了されたのはゴト着と呼ばれる作業着を着こなす風貌ではなく、現場で汗を流す職人の姿だった。
「ひと足先に鳶になった友人に勧められたのがこの仕事に就くきっかけになったのですが、なにより先輩鳶さんが高所で働く姿に魅了されました。とにかくかっこよかったんですよ!」
鳶の仕事は鉄骨むき出しの足場を組み上げる命に関わる危険な作業だ。
高所での作業は気をつけていても一瞬吹き付けた風や滑りやすい足場に脚を取られるなど数多くの危険が潜んでいる。
だからこそ、命綱付きの腰ベルトをかけて作業を行いながら仲間と協力し足場を組んでいく。
命をかけて働く鳶の姿、いわば「職人魂」に人びとは魅了されるのだ。
阿部さんに一人前の鳶とはどのような人かを質問すると単純明快、次のような答えが返ってきた。
「現場でなにより安全第一を考える鳶ですね。この仕事は安全に足場を組んでなんぼですから」
自らは危険な目にあったことがないと話す阿部さんだが、鳶の世界は我々が想像する以上に危険と紙一重のようである 。
「若い子には仲良く接するように心がけていますが、(危険な現場だからこそ)作業中は頭ごなしに怒ることもあります」
実際に足を踏み入れたからこそわかる鳶の世界観を胸に作業する阿部さんの姿は、我々を魅了する「職人魂」を間違いなく備えていた。
友達にも鳶の事を教える。