鳶の仕事は、ビルやスカイツリー、海を渡る橋や高速道路ばかりではない。
家族の夢であるマイホームを建てるための足場も、代替わりなどで家の化粧直しの外構塗装、屋根塗装のための足場を組むのも同じく鳶の仕事だ。
大型建築物を扱う鳶たちは、何かと注目を集めやすい。一方で、庶民にとって身近で、親しみのある生活に密着した仕事をしてくれる鳶もいる。
「夢の一戸建て」を支える足場は、大型建築にはない難しさ、魅力や技術を必要とする。
龍太さんは、そんな「町の足場屋さん」で、町鳶として働く22歳のエース鳶職人だ。
ワカトビ年代から、同世代のワカトビや今年の春から足場の世界に足を踏み入れる新たな後輩たちに向けて、職人としてのアツいメッセージを語っていただいた。
【基本情報】
・お名前 龍太さん(ハンドルネーム ryuta)
・年齢 22歳(平成7年生まれ)
・勤務地 埼玉県
・職域 町鳶(新築、リフォーム、屋根塗装向け単管足場)
・就労形態 外注扱い(一人親方扱い)から、間もなく正社員雇用に切り替え
職歴のスタートは派遣から・・・間近で見かけた鳶に憧れた中学時代
―最初に鳶職人を目指したきっかけを教えてください。
鳶職人になったのは16歳の時で、最初は派遣で始めました。直接のきっかけは、通っていた中学校の脇で足場を組んでいる職人さんを見てかっこいいなと思ったことですね。
でも、すぐに仕事に入るチャンスはないまま、なんとなく高校に進学して中退、その後、先輩の紹介で派遣に入ったんです。最初は派遣の制度も良く分かってなかったですね。
16くらいの頃ってモノを知らないじゃないですか。最初はよくわからなくて、とりあえずで派遣で外構の足場をやってみて、合わなかった。で、別の先輩に「なんか合わなくて」と相談したら、別の派遣会社を紹介されて、転々としていました。
―今の会社に入ったきっかけなどをお願いします。
今の会社は、派遣やってたときの派遣先だったんです。1年ほど派遣社員として、新築やリフォームの仕事を経験しました。
次に塗装の仕事の派遣をうけて、塗装工として、首都高の向島線「朝日ビル」の前で、桁の塗り替え作業を経験しました。古い塗装をはがすケレン作業だったんですが、塗られていた塗料が規制前のもので、PCVとか鉛を含んだものが使われていたもんだから、防護服を着てやってても、体に取りこまれてしまうんですね。それで血中鉛濃度がオーバーして、塗装ができなくなったんですよ。それが18になる少し前でした。
1年たって、埼玉に戻ってきて1か月程度塗装をやってた時、偶然、街中で今の会社の社長のトラックとすれ違ったんです。
それで「ひさしぶり!」って話し込んだら、「子方がいなくてな。うち来いよ!」って声をかけてもらって働き始めました。
以降3年くらい、一人親方として契約して仕事をもらっている形ですが、現場は社長と一緒に回っていて、メインで仕事させてもらってます。今年から社員として入社するつもりで、今調整中です。
個人住宅を扱う「町鳶」だからこそ求められる「気づかいのあり方」
「足場に関しては、鳶に始まり鳶に終わる。だから、きちっとやることがとても大事。施主さんにとって、第一印象と最後を〆るのが鳶だから。」と語る龍太さん。
現場は、関東全般、茨城、栃木、埼玉、東京など、たまに横浜や、大和市と広範囲で活躍している。
若い社長、若いエースのワカトビコンビだが、町鳶として個人住宅を扱う立場だからこそ、気をつけているポイントもあるのだそう。
―勤務先について、もうちょっと詳しく教えてください
越谷にある会社(越谷丸三開発)から自社物件を任されている会社です。現在は、36歳の社長と、22の僕がメインで、一緒に仕事をしている、外注請負いのチームがひと班あります。
―どんな物件のお仕事が多いですか?
取り扱うのは、中低層、戸建て、リフォーム、新築足場や、屋根塗装。いわゆる「町鳶」で、ビルなんかの高層は扱っていません。仕事場は個人の持ち家で、施主さんも個人の方ばかりですね。
―これまでで、一番印象に残っているお仕事とは?
どれも残ってますねー(笑)一番は、3年くらい前にやった、敷地が狭くて隣まで200も空いてない物件の仕事ですかね。上物をかける時は、まだ、何も建ってないから良かったけど、バラすときは建物があるわけで、ちょっと失敗したら壁とか傷つけてしまうから、すごく緊張して。
あと、困った経験で言えば、新築で3面の3階建てをかけた時のことですね。足場をかけた後に、隣地の方が、日照権のことでモメてしまって。
隣の人から僕たちに「困るんだけどー」って言ってこられました。でも、足場屋はそれを言われてもわからない、元請けさんに聞いてみないとわからない。困ったなー、ってことがありましたね。
町鳶が扱う物件は個人の財産になる住宅。一生に一度の買い物、個人住宅の現場、オーナーの財産にキズを着けない緊張は若いからこそ強いのだろう。
友達にも鳶の事を教える。